コマヤド77**

雑な文

君の名は。〜全吉田応答セヨ〜

初めて出会う名前

幼い頃にふとナイター中継を観始めてから,プロ野球選手というのは随分と珍しい苗字のひとが多いのだな,と気がつきそれ以来なんとなく気になっている。私が青森育ちゆえにそう感じたのかも知れないが(津軽地方では佐藤・工藤姓がクラスの半分を占めることもある),上京し30年近く経ってもプロ野球選手以外では出会わない苗字は非常に多い。現役勢でつらつら挙げてみても,筒香,乙坂,三ツ俣,阿知羅,九里,大瀬良,戸郷などなど。日本は広いと実感する。

筒香嘉智なんてそのフルネームの文字感から野球を知らないひとに「教科書には出てこない悲運の武将でさ,横浜の空高く,と最後に句を詠んでね…うっうっうっ」と目を潤ませて説明すれば何の疑問も持たれないうえにめちゃめちゃに興味を持たれてしまいそうだし,中日の三ツ俣なんて,あれ?さっき出てたよね?いやそれは三ツ間かよ的な混乱を起こす「珍しい苗字コンボ」を起こしていて面白い。パ・リーグだと生田目や嘉弥真,黒羽根だって地味に珍しいし万波さん(音感的にさん付けしたくなる)もなかなかだ。頓宮に至っては読み方すら分からなかった。

過去のスター選手も同様に,中畑,落合,谷繁,江夏,阿波野,野茂,北別府,掛布など,枚挙にいとまがない。野球ファンであればそれらが結構な珍しい姓という感覚すら起きない大スターたちである。

もちろん珍しい苗字だからといって活躍が約束されているわけではない。が,やはり素晴らしいプレーで強いインパクトを残し,その珍しい苗字たちが妙にカッコよく思えてきたり憧れを抱いたりするのも事実だ。

そこで田中である。

 

 

ありがちな名前

たなか。それはTHE 苗字である。苗字といえば田中である。田中といえば苗字である。珍しい苗字にかまけて憧れる我々を,田中は決して見逃さない。

田中軍は圧倒的である。その軍勢,2019年開幕時点でのプロ野球選手登録者数は11人を数える。育成やコーチ陣を含めると更に増えることになる。まさにプロ野球田中天下,田中天国である。なのにあまりそう感じさせない田中。こんなに沢山いると気づかせない田中。実に巧妙な田中。天下泰平田中たる所以である。

そんなわけで天下の田中の名に生まれてきたからには田中らしく生きていかなければならない。田中らしい生き方とは何かを模索しなければならない。田中ってからにはまずまず足が速いはずだ。串カツとあだ名されても田中メンタルはひとつも揺るがない。いつも田中らしく,田中としてやるべきこと,田中の向こう側,田中とは何か,世界田中発見,そのように田中はいつも最高にぐんぐんと田中をしていて,珍しい苗字勢を数で圧倒し,いずれすべてを田中色に染める(紅)。君も田中,僕も田中。みんな田中。それが田中だったはずだ。彼が現れるまでは。

 

マーくんである。

マーくんは,そんな田中だらけの殻を打ち破ってしまった。もはや田中は全く全然凡庸ではない。マーくんが世界のタナカに田中をタナカク上げ,いや格上げしてしまったのだ。

 

こうなるとプロ野球における圧倒的田中姓の牙城は脆くも崩れた。そこに襲いかかってきたのがそう,本日の主役たる吉田である。よしだ。THE 苗字とまでは超メジャーではない。佐藤も工藤も虎視眈々とその座を狙っている中,吉田こそが田中の後釜を田中すべきなのだ。

 

 

吉川晃司と菊池桃子と吉田

2019年開幕時点での吉田姓選手は7名である。うち3名はオリックスである。「あれ?去年はもっと沢山いた気がする。へえ意外とそれしかいないんだ〜」などと頷いたならあなたはもうすっかり吉田にやられている。読売を中心とした新興勢力である吉川も吉田とみなしている節がある。それも吉田の思うつぼだ。しかもヨシカワ勢は吉川晃司勢がとっくに駆逐している。ヨシカワ?いや読みが違うかもしれないぞ,と疑心暗鬼になったなら既にセンクスモニカだ。それこそビーマイベイベーだ。吉川勢敗退だ。

 

ならばサイトウ・キクチこそが最強ではないか,との意見は頷ける。連合軍でこられたら吉田と言えどもひとたまりもないだろう。だがしかしサイトウのサイはなにせ変換候補が多すぎる。縦割り行政ゆえ派閥間調整が必要だ。キクチに至っては菊池と菊地であれーどっちだっけなー間違ったら失礼だなー,でもだいたいのキクチはサンズイだよなーと雑になるうえ,個人的な趣味で菊池桃子さんが頂点である。再婚おめでとう!初めて買ったレコードは雪に書いたラブレターでした!君に幸せあれ!

そんなわけで私がいま真夜中に長渕剛乾杯を泣きながら歌い出したのでサイトウ・キクチ勢も残念ながらここで敗退である。諸行無常の世はラ・ムーである。青春はいじわるである。よってついでにサトウもクドウもイトウも敗退である。

 

というわけで我々には吉田しか残っていないのである。吉田は「吉」の上の棒と下の棒のどっちが長いとか気にしない。吉川は下の棒長い勢が案外気にしている。吉田は気にしない。吉田は気にしないんだよ。吉田は田中と田をコラボしている。これは地味に観衆のハートを掴む。田中の田が吉田に?!?!とひとびとは興奮したり手拍子したりしている。私は何を書いているのか。一体これはなんなのか。ともかく田中ありがとう。吉田は感謝も忘れない。吉田はがんばり屋。吉田の涙に嘘はない。吉田はご飯を残さない。吉田の踵はいつもスベスベ。吉田はウインクが下手。吉田は…吉田は…。

 

 

遠いあの地で君の名は

そんな吉田のライバルたち,タナカ・サイトウ・キクチは既に遠く海を越えた場所,筒香や秋山も挑戦するメジャーリーグに選手を送り込んでいる。キクチはもしかしたら増えることになる。だが吉田は残念ながらまだ「ヨシダ」になれていない。

 

だが同じくありがち苗字の代表格である「スズキ」がきっと,君(吉田)を待っている。シアトルの辺りから優しい眼差しで,いつか来るであろう君(吉田)を待っている。神戸方面からやってきたほうが嬉しいのかも知れないが,北の大地に輝く星のことも気にしているかも知れない。新しく挑戦する選手たちに優しくもクールなコメントを残しつつ,変なTシャツを着て,今か今かとまだみぬ君(吉田)を,長男みたいな名前で次男のスズキは,きっとずっと待っている。そんな君(吉田)の名は…。君(吉田)の名は!!

 

かっとばせー!全吉田!

三振奪えー!全吉田!

タナカを、た、お、せー!おー!